November 25, 2016

音楽家の為の「音楽著作権解説」B

一つの楽曲が生まれて、リスナーの耳に届くまで、そこには様々な立場の人々が関わっています。 しかし案外、権利者の立場である音楽家の方々から「著作権周りが難しくてよく分からない」という声を耳にします。 「音楽を聴く」ということがどんどん手軽になる一方で、音楽ビジネスとは「権利ビジネス」であるという本質が重要度を増し続けています。 そこでChocoMintは「音楽家の為の」といった視点で、難しい条文や専門用語になるべく依存しない文体の「音楽著作権解説」を用意しました。 今回は第三回です。


第三回「カタチがないものに対する権利」

皆さんは「知的財産権」という言葉はご存知でしょうか? 第一回の解説でも、チラッと「知的財産」という言葉は出てきましたが、あまり馴染みのない言葉かもしれません。 「もの」には、カタチのある「有体物」と、カタチのない「無体物」が存在します。 具体的な例を出してみますね。


有体物・・・椅子、家、車、土地、犬、オムライス、本、ガス、空気、水、etc..
無体物・・・音楽、美術、物語、踊りの振り付け、発明、権利、熱、光、電気、etc..


見比べると、なんとなくお分かり頂けるかと思いますが、「有体物」は「気体、液体、固体に属するもの」、 それに対して「無体物」は「精神的な創作物やエネルギー等」が当てはまります。 簡単に言うと、「有体物」はカタチがあって触れるもの、「無体物」はカタチがなく触れないけど確かに存在するもの、ということになります。 ※ちなみに法律上では「もの」ではなく「物」と書くと、それは有体物だけを指す言葉となります。 (民法第85条「この法律において「物」とは、有体物をいう。」) 更にちょっと高次元な話に進むと、「有体物」も「無体物」も共に、「誰のものなのか」ということを決めることができます。 いわゆる「支配権」です。
「支配権」は、対象物が「有体物」なのか「無体物」なのかによって、名前とその支配方法が異なります。 まず、「有体物」に働く支配権は「所有権」と「占有権」です。 一方「無体物」に働く支配権が「知的財産権」となります。 ついに「知的財産権」という言葉が登場しましたね。 つまり「知的財産権」とは「カタチのないものを自分の財産として支配する権利」なのです。 (ただし無体物のうち「熱や光などのエネルギー」に関しては、支配権について諸説意見が割れており、 別の法律の話になってくる為ここでは考えないことにします。) 有体物の「所有権」や「占有権」は大昔の紀元前から存在しましたが、無体物の「知的財産権」は、 第二回でも話題になった「15世紀の活版印刷の発明」以降に爆発的に発達しました。 尚、次回で説明致しますが、「著作権」というのは、数ある「知的財産権」のうちの一つなのです。


<有体物と無体物の紐づけ>
ここで一つ、考えてみましょう。 「音楽CD」は、有体物でしょうか?無体物でしょうか?

正解は..「有体物」です。

反論1:音楽は無体物ではないのですか?
回答1:音楽CDは実際に空間上に存在して、触ることだってできますよね。 これは有体物だからです。 確かに「音楽」は無体物ですが「音楽」と「音楽CD」は別物です。 厳密に言うと「音楽CD」という有体物に「音楽」という無体物が紐づけられているという状態になります。

反論2:音楽CDを購入するということは、音楽を購入することと同じじゃないですか? ならば音楽CDは「形のある無体物」と考えられませんか?
回答2:残念ながら、音楽CDを購入してもその音楽の権利まで購入したことにはなりません。 その証拠に、購入したCDの曲をCD-R等に複製し個人的に鑑賞するのは構いませんが、そのCD-Rを他人に売ってしまうと犯罪行為になってしまいます。 つまり、お金を払って「音楽CD」という有体物は手に入れても、「音楽」という無体物の「知的財産権」は著作者の元に残ったまま、 ということになります。

※ちなみに法律上では、上記の音楽CDのように、何らかの有体物に音が紐づけられている物を「レコード」と言います。 (著作権法第2条第1項第5号「レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの (音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。」)


<よくあるややこしいトラブル>
上記の音楽CDの例のように、「有体物に無体物が紐づけられている状態」はありふれていて、よくややこしいトラブルが起こります。

【NG例:楽譜】
× 演奏会の練習をする為、購入した譜面をコピーして、一緒に演奏するメンバーに配った。(著作権法第二十一条「複製権」の侵害)
解説:確かに譜面という「有体物」は所有している状態ですが、その譜面に載っている音楽(無体物)の知的財産権まで譲渡されたわけではありません。 その為、権利者の許諾無しで複製すると違法行為になってしまいます。 ただし例外的に違法とならないケースもあります。 例えば、家庭内での個人練習の為に自分で買った譜面をコピーしたり、学校の先生が授業で使用する為にコピーをする場合です。 この例外については、後々の回で詳しく説明したいと思います。

【OK例:美術品の展示】
○ ある有名な絵画を所有している人に許可をもらい、展覧会でその絵を展示をした。 (著作権法第四十五条「美術の著作物等の原作品の所有者による展示」)
これは音楽ではなく美術品の話になりますが、上記の音楽CDや楽譜の例なども踏まえて考えると、一見違法行為のように感じませんか? 実は私も最初はそう思いました。 所有者と著作者が別々に存在しているなら、所有者だけではなく著作者にも許可を取らないと展示をしてはならないのではないか、と思ったからです。 しかし意外なことに、この場合は全く問題ありません。 先程の楽譜の問題は「複製権」というコピーに関する権利の問題でしたが、今回は「展示権」という美術品の展示に関する権利の問題となります。 なんと「展示権」の場合は「美術品の所有者が展示OKと言ったなら、著作者に許可は取らなくてOK」ということになっているのです。 ちなみに、展示に伴うパンフレット等に美術品の写真等を掲載することもOKですが、その他のグッズ(図録、絵葉書、ポスター等)に写真等を掲載する場合は、 著作権者の許可が必要となるので展覧会の開催者は注意が必要です。


<最後に>
以上が今回のテーマの「有体物」と「無体物」に関する考え方でした。 「有体物」と「無体物」の住み分けは、お互いが紐づけられていることが多いことから、よくややこしい状況が生じます。 もし何かややこしい場面に遭遇したら、まずはネットなどで調べてみるのが良いでしょう。 ただしネットにはいい加減な情報や嘘の情報も多く存在しています。本当に多いです。 悪意がなくとも「人から聞いた話や、根拠のない想像だけでいい加減な記事を書いてしまっている」という、執筆者自覚なしのケースもあります。 なので、これは全てに言えることですが、ネットの情報を参考にする場合は、ただ鵜呑みにするのではなく、 実在する法律の条文をソースとして参照しているかどうかを必ず確認し、信頼できる情報だけを参考にするようにしましょう。

Sponsored Links